っというわけで 場面はロープウェーの中へと移ります。


桜ちゃん:
「 私 街並みを見下ろせるように谷がわがいいわ♪ 私の場所とっちゃ駄目よ 」


ええと・・・早い時間の営業だし まだロープウェーは混雑してないです。

ってゆうか 今回の運行に関していえば 僕ら三人しか乗っていない
貸切状態


  


どこが自分の場所もなにもないだろうに・・・・(笑)

っと思っていたら ホタテマンパパが


「 何いってるんだ 元々乗りたかったのはパパなんだから
      谷がわの街を見下ろす
BESTポジションは俺がとる! 」


とか言い始める始末。

結局は二人で押し問答した挙句  今は僕の目の前、谷がわの場所に肩をならべて互いに窓ガラスに顔をくっつけて目を輝かせています。

途中ですれ違う 昇り線ロープウェーゴンドラの中に居る乗客へ 同じタイミング、同じ手の振り方で二人仲良く手を振っています。

や や やっぱり親子っすね そっくりっす(笑)





数分間で終わってしまうゴンドラに揺られる旅。

当たり前だがあっという間に山麓駅へと到着。

僕の目の前の二人が同時に振り返り、
「 たいそう満足でおじゃる♪ 」的に満足気な笑みを浮かべて見せたときには思わず笑い出してしまいそうになった。

笑うのを必死にこらえる僕。

たぶん この時に 双子タレントの まな・かな姉妹のように 同時に
「 満足ぅ〜♪ 」とか声まで揃えて言われたら、間違いなく耐えられず笑いだしてしまったことだろう。






山麓駅を出てみるとガラス工房までは本当に目と鼻の先です。


 Glass Studio In Otaru



早速 建物の中へとはいりグラス製作の申し込みを済ませた。

今回は 三人おそろいの形のグラスを使うことにした。

そこへサンドブラストと呼ばれる工法を用いてガラス表面へ絵付けをしてゆくのだそう。

これは面白そうだ♪ いざ チャレンジ!




 ※この部分は体験ガラス製作の写真とかはめこむことにしています※

 そんでもって その際のBGMはピアノ曲で有名なカノンでいきましょう♪

 MIDIファイルで良ければフリー素材を用意させていただきましたのでご利用ください
  MIDIファイル「 カノン 」 (C)MIDI by SayaTomoko  ⇒ こちらをクリックしてください
 ( 再生には WINDOWS MEDIA PLAYER などが必要です )

 使用したフリーMIDIファイルの配布元サイトはこちらとなります
 【M-BOX】クラッシックフリー素材MIDI&MP3 ⇒ http://m-box.pianomidi.org/






僕は 以前に彼女の家族と一緒に乗馬遊びをするため小樽市内春香山へ出掛けたことがあったのを思い出し 馬の絵をつけることにした。






彼女のデザインを覗き込むと 花を描くつもりのよう。

パパの方はと覗きこむと そこには 自分のロードスターに履かせている
ワタナベのアルミホイールの絵が・・・。

パパさん いくら車好きだといっても アルミホイールだけ描いても意味わかんないんじゃないですかぁ?


  


大丈夫ぅ〜(^^;)?  こんな絵柄をグラスへ描いてもねぇ・・・ あはは



各自 想いおもいの製作時間がつづきます・・・・。






最初に作業を終えたのは僕。 

続いて彼女が作業を終えた。

ホタテマンパパの方はといえば 大きな手で四苦八苦しながら小さなグラスとの格闘を続けています。

どうも 最後に文字をデザインに加えたらしい。

作業に真剣に打ち込む彼の背中越しに文字を読むと
「 ありがとう 」と描いてある。

愛してるよ とか絶対に口に出して言わなさそうな大柄な体格の男が こういう素直な気持ちを載せるのを見るとグッとくる。

ママさん 喜んでくれるといいですね。



さぁ 目的のプレゼントは無事に出来上がりました。

自宅へ戻って手紙を入れてから包装するからと伝え 出来上がったグラスは紙ハコへ入れるだけの状態で受け取り持ち帰ることにした。

僕らは オリジナルグラス製作を指導してくれた工房のスタッフの方々へ礼を告げ工房を後にする。

良いプレゼントを用意することが出来ました 有難う御座います。



僕らは 再びロープウェーにのり 山頂のパーキングへと戻った。

あとは誕生会用に若干の買出しをすませ帰宅するだけだ。

「 ここまで来る時には僕の車に乗ってきたから 」と話し 彼女は今度はホタテマンパパの助手席へと乗り込む。

僕は空いた自分の車の助手席へ 出来上がったばかりのオリジナルグラスたちを置く。

さぁ 小樽の街へと降りようか。




僕は助手席に大事なプレゼントを預かっていることも考えて、車が振動を拾わないよう努めて安全運転を心がけていた。

ぜったい 破損させられないもんな・・・・。





誕生日のお祝いといえばケーキです。

これは 母親の好きな 
スィーツ店 Letao さんのチーズケーキを買ってゆくつもり。


このチーズケーキは小樽の土産物としても名が知られている。


     こんなケーキですよぉ♪


これに自分達で生クリームやチョコレートペンを使いさらにデコレーションすることに決めていた。

これには僕の妹の乙女( 本名:勝内乙女 かつないおとめ )が Letao本店で働いていたことも大きく関係している。

今日 ケーキを買いにゆくことは勿論先に伝えてあった。


「 いつもお兄ちゃんが世話になっている方の誕生日だから・・・ 」と ケーキは妹の乙女がプレゼントしてくれることになっている。


あとは引き取りにゆくだけな状態です。

当初は 僕だけが店内へと出向き ケーキを引き取ってくる手はずだったのだが、

「 いただき物することだし一言くらいお礼を伝えておきたい 」

と彼女ばかりでなくホタテマンパパまで僕のあとについて店内へと入ってくる始末。


僕:
( 二人ともついてこなくっていいのに・・・・やりづらいなぁ・・・・
とほほ )


乙女の奴は、店内へと足を踏み入れた僕らのことをめざとく見つけだし すぐさま
んでくる。

ケーキを手渡しながら 互いの挨拶が始まった。

挨拶自体はどこでも聞くような内容であり大して気にもとめなかった。


しかし 離れ際、最後に乙女の奴が彼女らへとむかい
「 私こんなお姉ちゃんが欲しい お兄ちゃんこの娘に決めてね 妊娠させちゃえ・・・( 小声 ) 」
                                       と口にしたのには正直あせった。


僕は急な展開に狼狽し
   「 はははは まったく子供は何を言い出すことやら (苦笑&滝汗) 」
                            とコメントしつつ乙女の頭を
ぺチぺチと叩いてみせる。


こいつ(乙女)は後で
死刑だな(笑)

まったくもう・・・ びびったぜぇ・・・

さくっと 退散するに限ります。








祝いの席でケーキの他に必要なものはぁ・・・・・そうそう お酒ね。

ワインは先日地元インターネット情報配信サイト「 樽樽源 」の懸賞でいただいたものがあるからOKとしよう。


      



加えて日本酒も買って帰ることにした。

どうせ買うなら小樽は作り酒屋があるから地酒を持ち帰りたい。

しかし これには意見が別れた。

小樽の地酒。蔵元で店を構えているのは 「 北の誉酒造 」さん 「 田中酒造 」さん 「 雪の花酒造 」さんといったところ。




ホタテマンパパは強く 雪の花酒造 さんの酒を推してくる。

どうも チャンスをみて自分自身が買って飲んでみたかった新商品のお酒があるらしい。

しかし僕らの部隊構成は 若い女性1名 おっさん・あんちゃんの男性2名といった タイムボカンシリーズでいう どろんじょ一味 みたいなものです。


( ※補足:タイムボカンってのは1970年代にタツノコプロからリリースされてたTVアニメっす。公式サイト可愛いよ )




当然 主導権は どろんじょ様よろしく 彼女が握っています。

んで彼女の結論は・・・・・。


桜ちゃん:
「 やっぱり田中酒造よねぇ♪ 」


だそうです。

一応 根拠を尋ねてみたところ


 根拠その@:
 本店勤務の男性店員が背が高くて優しい人だから

 根拠そのA:
 自分の幼馴染であり親友でもある女の子 
ふぅちゃん が働いているから

  ※ふぅちゃんの本名は船口小春(ふなくち こはる)。ふなくち酒 と お酒の銘柄「 こはる 」に由来しています※


っだそうです。  

おいおい 母親の酒の好みとかは根拠に入ってないんかい(^^;)

ここで ホタテマンパパが口をひらく。


ホタテパパ:
「 田中で買うなら ○○○って酒も買ってやろう
   俺もうちの奴もあれ好きなんだよ。 
     新商品を買うチャンスを自ら潰すことになるとおもって黙ってたんだ。
          ごめん ちょっと反省してます 」



桜ちゃん:
「 あら 確か 田中酒造さんでも先日新商品でたはずよ パパそれも一緒に買ってみる? 」


ホタテパパ:
「 それを早く言え♪  さぁ 皆の者急ぐのじゃ! 新商品〜♪ 新商品〜♪



な ・ な ・ なんだか 付き合いが深まってゆくに連れて パパさんキャラクター変わってきてる気がしません?

気のせいかなぁ〜(笑)





かくして 一行は小樽の地酒屋へと移動した。








 ※ここは田中の建物内で あれにするか これにするか 数本の代表銘柄を選ぶ様子をはめ込みたい・・・※







ここで
 無事に美味しいお酒も GET!



食材はオードブルを発注してあったし お寿司の出前も注文済みです。

あとは まっすぐ帰宅するだけのはず 






いつまでも終わらない 自分の娘と 幼馴染のフレンドトークをさえぎるようにパパさんが声をかけた。


ホタテマンパパ:

「 おい もう行くぞ お前は母さんの酒を選びにきたんだか 友達に会いにきたんだかわからんなぁ まったくもう(笑) 」



桜ちゃん:
「 じゃあね 後で電話するからぁ♪ 」


彼女は素直にパパさんの言うことをきいた。

ただ 離れ際になると ふぅちゃんとの一生の別れかのように何度もじゃれあい互いに抱き合っては


「 貴女のことはきっと忘れないわ・・・絶対電話するから♪ 」だの
  
「 私も青春という名の日記に貴女の名前を留めるわ。絶対手紙かくわね 」だの


大袈裟な表現の冗談を言いあっては笑いつづけている。

お前ら女子高生かよ・・・(笑)




ふぅちゃんや 他の店員さんらが店の外まで出てきて帰宅路につく僕らを見送ってくれた。

こういう店も最近では少なくなったなぁ・・・。




今 僕の助手席に置いてあるママさんの誕生日用のお酒。

このお酒に思いを込めてくれた人たちは 僕ら三人だけではなさそうです。

大切に運ばないといけない   責任重大だ。

車を動かすとき 手を振ってくれていた店員らの姿へと頭を下げながら 僕はそんな思いをめぐらせていた。




さぁ いよいよ帰宅だ

酒屋をあとにしてすぐの交差点、赤信号につかまり僕らは停車。

この間を利用して ぼくは後方から追走する形となった2人へ無線機をつかって確認をとることにした。


ホタテマンパパの無線機(僕からの交信):
「他に立ち寄る場所ありますか?」


僕の無線機(ホタテマンパパ号から彼女の声で交信):
「大丈夫 まっすぐ家へむかってね。 ダーリン♪


ホタテマンパパ号の無線機(僕からの交信):
「 OK! 」


僕は 誰がダーリンやねん とちょっと照れながら無線機へと声をかえしてみせた。

パパさんも オアツイ2人の姿にあてられて クラクラきている様子。 笑いながら車外の街並みへと視線を移している。

今日も 幸せな時間が過ぎてゆく。 

いつまでも いつまでも こんな時間が続きますように・・・。







前方の信号がにかわった。

荷物のこともあり 努めてゆっくりと発進してみせる。

そして 僕の車は交差点の中へと進んでいきました。




っと 次の瞬間

僕の視界が右側よりせまりくる大きな塊を捕らえた



僕:( ん?・・・・ )





視線を右がわへ移す途中。 すでにそれが大型トラック車両のそれであることが伝わってくる。








ぶつかる! 駄目だ 間に合わない!!





反射的にこれから起こる事態と襲い掛かる衝撃を察知した僕は身を硬くした。


僕:( あっ いけない! プレゼントが!)


助手席へむかい左手を伸ばし 強引に酒瓶を押さえ込む。


同時に、
” これから起こるだろう光景を彼女へ見せてはいけない! ” その思いが光の速さで僕の脳裏をかすめた。


運転席から身体をひねり助手席の酒を押さえ込んだそのままの姿勢で、後方へと視線をなげる。

こちらをみつめる彼女と視線があった。

全ては一瞬のことだった。

ごめんな・・・ 








グシャリ という鈍い音とともに 僕の身体に衝撃が走った。



彼女とパパさん、二人の目の前で 僕のロードスターは紙くずを押したたむかのように潰され
金属的悲鳴をあげてゆく。

急に目の前の視界から 僕の車両が居なくなった光景に2人は凍りつき動けなかった・・・。

さっきまで目の前にあった物がなくなり 今は対抗する右折車両がウィンカーを点滅させつつ停車している姿だけが見えている。



辺りから音が消えた・・・。





彼女とパパさんの二人は ただまっすぐ前だけを向いていたが その目は何もみようとはしていなかった。

まるで時間がとまったかのような瞬間。 写真でもみせられているかのような光景・・・。









 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 






彼女の悲鳴が世界を切り裂き 再び時が動きはじめる。

自分たちの車両から飛び出してきたパパさんと彼女が、20メートル程先へと跳ね飛ばされてしまった僕の車両へと駆け寄ってきた。


駆け寄る途中、すでに鉄の塊と化してしまった僕のロードスターをパパさんの視界が捕らえる

( 駄目だ・・・・車は原型すらとどめていない・・・・)




一足早く パパさんが僕のそばへと到着した。

全ての状況を一瞬で悟ったパパさんが きびすを返して振り返り 後を追ってきた娘を強引に静止する。


パパ:
「 来るな! 見ちゃ駄目だ! 見るな!!」



彼女は 声にならない声をあげながら父親の静止を振り切ろうと暴れまくる。


僕は怒鳴り声をあげながら娘を必死に静止するパパさんの声や 気が狂ったかのように僕の名を呼び続ける彼女の声を聞いていた。




あ・・・ いけない・・・プレゼントが・・・・・




衝撃で朦朧とする意識の中 ぼくは左手の下で奇跡的に割れずに収まっている酒瓶の感触を確かめた。

良かった・・・割れてない・・・。

しかし 三人で作ったオリジナルグラスたちは衝撃の瞬間に車中を舞い、紙ハコから飛び出してしまっている。

駄目か・・・・

車の割れたガラスとグラスが破損したそれが入り混じり 破片だらけになってしまった車内。

ふいに 辺りが暗くなってゆく・・・・ まるで舞台に幕が下りてくるかのように・・・。。



 なんだか とても眠い・・・・


      とても     とても・・・・・




薄れてゆく意識と視界の中 僕が最後に見たものは助手席の足元へと転がる パパさんが作った” 文字入りグラス ”の姿。

よかった・・・ あれだけでも無事でいてくれて・・・・。

その後 ゆっくり ゆっくりと 辺りに昼間の闇がおりてきた。






事故は赤信号を無視したトラック車両が交差点へと進入してきたことによっておきた。

通行人からの通報をうけた
警察官や救急隊員・レスキュー隊らがまもなく現場へと到着する。

すぐさま事故処理・救急救命処置が開始された。

事故発生時の様子はパパさんが説明にあたった。

パパさんの心情は、勿論 太の容態を心配していたのだが 彼は表情ひとつも変えることなく淡々と目の前で起こった光景を話しつづけた。

事故直後には狂わんばかりに泣き叫んでいた彼女も 騒ぎを聞きつけてすぐさま駆けつけてくれた親友に抱き抱えられ 今はひしゃげてしまったロードスターから少し離れた場所で呆然とすわりこんでいる。

彼女の視線は上をむくことはなく じっと足元のアスファルト舗装をみつめている。 見ていられないのだ・・・。




時折 救急隊員らの使用するレスキュー用具の起こす作業音があたりに響き その都度彼女はその小さな身体を硬くする。

ときおり小刻みに震える彼女の身体を ふぅちゃんが ひしっと抱きかかえては

  「 大丈夫 大丈夫だから きっと大丈夫よ 」 
と声をかけていた。

ふぅちゃんの目にはレスキュー活動を続ける隊員らの間から太くんの姿が時折垣間見えていた。

素人目にも 大丈夫と表現できる状況ではないことが見てとれる。

ふぅちゃん自身 事実とかけ離れた言葉であることは勿論自覚できてていた。

しかしそれでも この時 彼女が口に出来る言葉は「 大丈夫 」以外みつけることは出来なかった。




観光客が足を運ぶことが多い小樽運河そばでの事故。

何台もの救急車やパトカーがゆき過ぎる光景は そんな彼らをも引き寄せてしまう。

辺りはあっという間に 野次馬で埋め尽くされた。

中には 携帯電話をとりだし事故車両へと端末をむけて写真撮影をするものなどもでてくる。

一人が口火を切るとあとは歯止めが利かない。

俺も・・・私も・・・と 次々に周囲から
携帯電話やカメラを突き出す光景が溢れてゆく。


桜ちゃんがこれに気づいた。


突然立ち上がった彼女は ふぅちゃんの静止もきかず 彼らの手に握られた他人の不幸を記録する媒体の前へと飛び出してゆく。


桜ちゃん:
「 撮らないで! お願いします 彼を撮らないであげてください。 やめてお願いだから お願いだから・・・。 」


携帯電話やカメラを突き出して撮影する姿をみつけては前方へと立ちはばかり懇願・静止しようとする。

泣きじゃくりながら必至に懇願する彼女・・・   みていられない・・・。



駆け出し飛び出してゆこうとする彼女を最初は静止しようとしていた ふぅちゃんも これを本気で止めることはできなかった。

無残な姿になっている彼氏の姿を撮影されたくないんだという気持ちを考えれば 止める力なぞ沸くはずもなかった。

泣きながら必至に頼みまわる彼女の姿を なおも撮影しようとする者もいた。

しかし 多くの撮影端末は各々のポケットやカバンの中へとおろされてゆく。

何時の間にか彼女と一緒になって撮影しないようにと頼み回ってくれている方がたもいた。

それどころか彼らのような行動をとる人たちが 一人また一人と増えてゆき いつしか事故現場へ背をむけて立つ人の輪が作られ周囲の好奇の視線を防ぐバリケードを形成してゆく・・・。

手にガラス工房の土産物袋を持つ者、背広姿にブリーフケースを携えた者、まだ小学校の高学年であろう学童をつれた家族連れ、観光や仕事など大切な時間を過ごしていたであろう人たちが それぞれの想いで互いの手をとるバリケードを形成してゆく。


桜ちゃん:

「 ありがとう 皆さん本当にありがとう・・・ 」



いつしか 彼女の口から出る言葉は
「 やめて下さい 」という禁止を求める言葉ではなく感謝を伝える声へと変わっていた。






事故処理作業のひとつである事情聴取は淡々と進められていた

トラック運転手と目撃者であるパパさん、両者の主張する事故発生時の様相を照らし合わせるべく トラック運転手を引き連れた警察官がパパさんがわへと歩み寄ってくる。


警察官:
「 事故当時の状況なんだけれどもね まずは前方が青信号に変わったことを確認してオープンカーが交差点へと進入・・・・・その後・・・・・だから・・・のために衝突し・・・・・・・うんぬん・・・・かんぬん・・・・・っということが起きたということでいいですね 」


状況確認をすすめる警察官の声はパパさんの耳には届いていなかった。

なぜなら たった今、自分の前へと連れてこられたトラック運転手の顔ははっきりと
らんでみえていたから・・・。


 ぷぅ〜ん・・・・


パパさんの鼻先を 酒の香りがよぎる・・・。

同時に 両者の間に立っていた警察官の口から次のコメントが語られた


警察官:

「 それで ( トラック運転手へとむきなおり ) あんた何時ころから どれくらい ( 酒を )飲んでたの 」



パパさんの顔がみるみるうちに紅潮してゆく。

トラック運転手の肩越し、後方では彼氏を守ろうと必至に奔走する自分の娘の姿がみえた。

パパさんの顔が彼自身一度もみせた覚えがない
の形相へと表情を変えてゆく。


トラック運転手:
「 俺ぁ 酒は強いほうだから大丈夫だと思った 
              今日は 
たまたま 酔いが強かったみたいで・・・ 」


トラック運転手の吐く
身勝手な言い訳を最後まで聞くことなく パパさんが彼につかみかかる。


パパさんの振りかざした拳が そのまま加害者の顔面を何度もとらえた!



不意をつかれた形となった警察官が静止にはいるものの パパさんの勢いと怒りは治まることをしらない。

周囲にいた警察官もかけつけ、パパさんを背後から引き剥がそうとするものの 怒りに我を忘れたパパさんは彼らをも何度も振りほどき なおも加害者であるトラック運転手を殴りつづける。


警察官:
「 駄目だ! やめんか! 気持ちはわかるがやめろ! 」



応援にかけつけた警官数名が静止に加わり 引き剥がされたパパさんの体は路上へと押さえつけられる。


パパ:
( こんな奴のために・・・こんな奴のために・・・

         殺
してやる・・・・絶対にしてやる・・・・   )



警察官に脇をかかえられ 引き離されてゆくトラック運転手の姿。 顔面から血をながしヨロヨロと歩きさってゆく。

それでもなお パパさんの中に 怒りと悔しさが渦を巻く。

いまだ数名の警察官に抑えつけられたままの身体から
 
  うぉぉぉぉぉぉぉぉ !!
        
っと 悔しさという名の雄叫びがあがった



そこへ ひとりの男性が駆け寄ってきた・・・。


「 おい 力也! いったいどうしたんだ! 」


駆け寄ってきたのはパパさんの職場である海上保安庁の同僚” 樽原 鉄 ”
( 第1話でも ちらっと名前が出ていた人です。小樽で最初に出来たチャキさんの男友達に由来する名前となっています )

ともに永く海の安全を守ってきた旧知の仲間のひとりだ。

見知った男の駆け寄る姿をみた瞬間、 パパさんの表情はくずれ 涙が溢れだす。

そして男泣きの嗚咽をもらすパパさんの身体から 少しづつ力が抜けていった・・・。


樽原:
「 もう大丈夫だと思います 放してやってもらえませんか 」


職場の同僚がパパさんを組み敷く形となっている警察官らへと声をかける。

同僚の到着以後のパパさんの落ち着きようをみていた警察官らもおとなしくこれに従った。

最後にパパさんのそばから離れていった警察官が言い残す。


警察官:

「 事故とは別に傷害事件として処理することになるやもしれません。心情はお察しいたしますが一応覚えておいてください 」


樽原:
「 そうですか・・・ご迷惑をおかけしました 」



パパさんにかわって職場の同僚が小さく頭をさげてみせた。





意識が無く ひとめでは何処に外傷があり出血しているのかさえも判らないほどに
全身血まみれになっている太の身体。。

車中からそんな負傷者を救出する作業は困難を極めた。

運転席のハンドルは 人間の身体がぶつかって こうも激しく曲げることができるのだろうかというほどに ぐにゃりと変形してみえる。

またこの変形してしまったハンドルが、まるで身体へめり込むかのように身体を押さえつけている。

右側面からトラック車両に衝突されたため ドア部分もまったくひらかない。

開くどころか 骨盤周囲から胴体部分の大半を押さえつけ シフトノブやサイドブレーキなどが組みつけられたトンネル部との間に身体を挟み込むような形に変形してしまっていた。

特殊工具を用いた懸命のレスキュー活動によって車体を切り刻んだり、わずかにできた隙間を押し広げるなどし、やっとのことで太の身体はロードスターの車外へと運びだされた。

レスキュー隊員に抱えられた太の身体は 糸の切れてしまった操り人形のように
手足や首がだらりと垂れている

血の気が失せたその顔貌は冷たい白肌へと変わり果てていた。

ストレッチャ−(寝台車)の上に横たわり移動を始めた彼氏の姿をみて彼女がかけよる。


桜ちゃん:
「 太くん! 太くん! 」


泣きながらストレッチャ−脇へとしがみつく彼女・・・。


桜ちゃん:
「 嫌だからね。 私、 嫌だからね 死んじゃ駄目だからね 」


車内収容作業に支障が出るから・・・との救急隊からの説明があっても、彼女は彼の横たわるストレッチャ−脇から離れようとはしなかった。

救急隊をとりしきる隊長から指示がでる。


隊長:
「 無理に引き離すのはやめなさい。
    我々が慎重に搬入作業をおこなえば大丈夫だから、付かせてあげなさい 」



そして太の身体は命をつなぐ車の中へと移されてゆきました。

あらかじめ待機していた救急車内へと搬入されるまで、事故がおきてからすでに1時間が経っていた。





搬送先となる病院の手配は、レスキュー活動が続く中、すでに小樽市立病院救急部での受け入れが確認済みであった。

救急車へ同乗するものとして 彼女とパパさん そして職場の同僚が選ばれる。

パパさんの車は 田中酒造さんからのご好意で店舗併設のパーキングへと保管しておいてくれるという。


ふぅちゃん:
「 私も早退して、あとからすぐに向かうから 」


ふぅちゃんの声かけにも彼女は反応することなく ただ目を開けることもないまま横たわる太の顔を見つめるだけだった。

娘の後を追うようにして救急車へと乗り込もうとしたパパさんへ  不意に背後から呼び止める声がかかった。

振り返ると 先ほどまで救出活動に奮闘してくれていたレスキュー隊員がたっている。


レスキュー隊員:
「 こんな時に非常識なと思われるかもしれないのですが、我々が作業をしている間中 意識の無い彼が最後までこれを左手から離そうとしなかったんです。持ち出せるものでもなかったので最後は指を一本一本開いて手を離させましたが 何か大切な物なのではないかと・・・。」


そういってレスキュー隊員が差し出した手には 割れずに残ったプレゼントのお酒と自分が製作したグラスが握られている。


パパさん:
( 自分の身体もかばわずに 最後までこれらを守ろうとしていたのか・・・・
      お前は優しすぎる馬鹿だ・・・   大馬鹿だ・・・  )



まさに、幸せな時間を作り出す
素敵なお酒と 悪しきお酒 の両極をみる事故だった。 


レスキュー隊員:
「 今この状況で持ち帰るのも難しいでしょうし 僕で良ければ後で何かに包んで病院へ届けますが・・・」


パパさんは 胸にこみ上げる熱い想いが強すぎて言葉が出ない。 

かわりに深々と頭をさげてみせた後、救急車へと乗り込んでゆく。

その後 太と三人を収容した救急車が走り出す。

僕らを乗せた救急車がサイレンを鳴らして駆けてゆく。

それは太を見つめる三人にとって 今まで聴いてきたどんな音よりも 悲しい音色に感じられていた。




僕らが出発したあとの現場には、
 鉄屑の塊と化した一台のロードスター が残る。

彼もまた静かにレッカーされてゆきます。

沢山の幸せと楽しい時間をくれた車。

今 その車が引かれてゆく・・・。

誰に見送られるでもないその光景は、まるで役目を終えた者が たったひとり永い休息の場へ向かうかのような光景に感じられます。

ありがとう 最後まで守ってくれて・・・ 


 つづく・・・



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